2026.08.31

在来種と土地の香り「ほとろ香」

  • 土地のこと

山口 立彦

城州ゆたに 山口製茶処
代表

かつての宇治茶には、他のどの産地とも聞き分けられる香りがありました。ほとろ香、そして下木香。品種の香りではなく、土地そのものの香りです。

ほとろ香とは

宇治田原町湯屋谷は、煎茶発祥の地であると同時に、昔から山茶の中でも最も香気に優れた地として知られていました。絶えず谷に吹き付ける風が茶樹を包み込み、霜の害から守られること。年間降水量が1000ミリ程度で、日本茶の産地としては極めて少雨であること。

茶樹がゆっくりと育つことで香りと味が凝縮され、濃厚な味わいになります。この土地固有の香りを、宇治では古くから「地香(じこう)」と呼んできました。

地香(じこう)

品種ではなく、その土地の土壌・気候・地形が茶葉に与える固有の香りを指す言葉。ワインのテロワールに近い概念で、宇治では「ほとろ香」「下木香」がこれにあたります。

Source: 城州ゆたに 山口製茶処

在来種という選択

在来種は、種から育ちます。挿し木で殖やされた品種茶と違い、一本一本が独立した個体であり、根は地中深くへと伸びていきます。土壌と気候の違いが、そのまま香りに現れます。

しかし、二本として同じように育つ樹はなく、機械で摘むこともできません。茶の栽培が機械化され品種が広まるにつれ、在来の畑はほとんど姿を消しました。ほとろ香も、それとともに失われていきました。

半世紀ぶりに、もう一度

私たちの畑には、樹齢二百年を超えると見られる在来の樹が今も残っています。手で摘み、肥料も農薬も与えません。収量は少なく、味わいは年ごとに移ろいます。

その代わりに、香りは残ります——何煎、重ねても。ほとろ香が最も立つのは、二煎目です。

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